1年前 彼女は、幼稚園PTAの母親代表だった。
彼女は、いつもいつも めいっぱい大きな口をあけて笑っていた。
彼女は、人の悪口や仕事の愚痴を言わなかった。
彼女は、誰かが困っていると いつも助けてくれた。
彼女は、毎日 幼稚園に来て PTAの仕事をしていた。
彼女の口癖は「私、PTAの仕事が好き」「好きだから、苦にならないの」
そんな彼女に冷ややかな「物好きね」「目立ちたがり」といった視線や、言葉もあった。
彼女が、幼稚園のPTA母親代表だったとき 私は、同学年の彼女とは別のクラスのヒラ役員だった。
PTA役員は、イヤイヤやるもの。仕方なく引き受けるもの。私は、そう思っていた。
そういうスタンスの方が、周囲に 余計な噂をたてられなくて済むから。
それに、実際 ヒラ役員でさえ大変だった。
月2~3回は幼稚園に出向いた。
丸1日携帯離せず。9時~17時で連日PTAの仕事。家でも残業。なんて時期も数ヶ月あった。
ご承知のとおり、それ全てを ボランティアで行うのがPTA。
そんなんだから ストレス発散とばかりに ヒラ役員は 私も含めて 顔をあわせれば愚痴ばかり。文句ばかり。
「私、パソコン苦手!クラス連絡の手紙なんてムリ~」
「役員なのに、あの人何で出てこないの!?仕事押しつけられて困るわ!!」
「会場に飾り付けするの!?そんなのどうしたらいいの!上手くできない」
「幼稚園の行事補助 大変!難しい!」
その1つ1つの愚痴やワガママに、彼女は耳を傾けて助けてくれた。
「連絡の手紙が書けないなら、ウチのクラスも書くから 同じ文面で良ければ用意してあげる」
「出てこない人には、私が連絡して説得する」
「私、工作得意だから 飾り付け手伝う。一緒にやろう」
「幼稚園行事の担当が大変なら変更しようか?」
そのうち、私達の愚痴が変わってきた。相変わらず、愚痴はこぼすが
「彼女の方が母親代表で、もっと大変なんだよね」
「彼女に頼ってばかりじゃ、彼女が倒れちゃうよ」
「いったい、彼女はいつ寝てるの?」
「もう少し、私達も頑張らなきゃね」
彼女は、最後の最後まで 誰より忙しく走り回っていた。
今でも イヤイヤ何かをしている自分がいるとき、彼女の顔が ふと浮かぶ。
口をめいっぱい大きくあけて笑っていた顔。
私も真似してみた。
彼女は、どうして 笑っていたのだろう。
どうして笑えたのだろう。
どうして 笑おうと思ったのだろう。