吾輩はズボラなるままに

15才、中1、小5の3児のママです。子ども全員明るくニート&不登校中。ズボラ万歳で過ごしています!

ゆきのちゃん

1か月くらいだけの付き合いの人を「友達」と、呼べるのだろうか。


「雪乃(ゆきの)ちゃん」は、大学のときの友達だった。1か月くらいだけの。


色白で 大きな目が印象的な 雪乃ちゃん。


大人しくて 俯いてまばたきするときの、長いまつ毛が上下する様が 女の私からみても美しかった。


雪乃ちゃんの名字は、美しい雪景色で有名な地名と一緒。そしで名前が「雪乃」


名は体を表すというが、それは彼女のことだと初めて思った。


大学の1年の4月、私も含めて周りがウキウキしている中、彼女の表情は何となくさえなかった。


4月の終わりごろ、学校の帰り道だったろうか
「この学校は、第1志望じゃなかったの?」


2人になったとき雪乃ちゃんにたずねた。


雪乃ちゃんは、黙ってうなずき
「私、鍼灸師になりたいの」
と言った。


「でも、お父さんもお母さんも大反対。あれは、目の悪い人がやるもんだって。ホントにバカみたいな考え」

「何度も何度も話したのに・・私は、鍼灸師になりたいの!ここは違うの。ここじゃあ・・」


確かに、この学校では鍼灸師にはなれない。


畑違いもいいとこだ。


おっとりキャラの雪乃ちゃんが、俯いて唇をキュッと結んでいた。


大きな目を見開き 怒っているような、でも今にも泣き出してしまうような。


「じゃあ どうして、ここに来たの?」
「ご両親の説得方法を考えなおしたら?」
なんて、安易な人生相談はできなかった。


彼女の横顔をみていたら、私は なにも言えなかった。


美しい長いまつ毛からは、涙は最後までこぼれなかった。


それから、雪乃ちゃんは 学校を休みがちになり、ゴールデンウィークが終わってからは学校に来なくなった。


それ以来 会っていない。


鍼灸師になったのかどうかも分からない。


雪乃ちゃんがいなくなって、半年後には、大学時代の友人は誰も、雪乃ちゃんのことは覚えていなかった。


1か月ほどしかいなかった同級生のことなど、そりゃあ、そうだろう。


だから、雪乃ちゃんのことは、誰にも話すことはなかった。


特にオチのある話でも、他人の興味をひく話でもないし。


でも、30年経った今でも、ふとしたときに思い出すのだ。


確かに、あの日 新緑の中で
「私の居るべき場所は、ここじゃない!」
と、確かに、雪乃ちゃんは私の隣で小さく叫んだ。


俯いて、唇をキュッと結んだ彼女をみて、内に秘めた信念というか、そんなものが表に現れた姿を初めてみた。


そして、そういう姿って、そういうときの人って美しいんだなと、初めて思った。


そして、そして、雪乃ちゃんにしたら、誰でも良かったのかもしれないけれど、心の内を、私に話してくれたことが、私には嬉しかったんだ。


雪乃ちゃんの顔は、もう覚えていないから、道ですれ違っても分からないけれど、いつかもしも万が一会えるようなことがあったら、彼女にそう話したい。