今年の2月から、月に1度食堂を開くそこへ、中1娘と一緒にお手伝いに行く。
これで3度目。
お手伝い内容は、食堂が終わるころに、洗い物をしたり片づけをすること。
ちょっと慣れてきた。
相変わらず、スタッフの人からは大歓迎を受ける。
嬉しい。
娘も、このお手伝いに行くことが楽しい様子。
お手伝い先では、食堂もしているが、庭先に不用品が置いてあり、自由に持ち帰ることができる。
その庭先を片付けていると、娘は1つの小ぶりのカバンを見つけた。
「これ、持って行ってもいいのかな?」
と私に尋ねてきたが、私も、まだ、ここの勝手がわからない。
「スタッフの人に聞いてみたら?」
と返事をしたが、娘はうつむいて黙っていた。
だが、そのバッグは離さない。
私がスタッフの1人を呼び止め
「このバッグなのですが・・」
と言うと、スタッフの方が
「気に入った?どうぞ、どうぞ持って行って!」
うつむいていた娘が、その言葉に、少し顔を上げてニッコリした。
そのスタッフの方が
「ちょっと待って。いいものがあるんだよね・・」
と言って、奥の部屋へ。
戻ってきた、スタッフの方の手には、かわいい動物柄の2種類のパスケース。
「私が持ってきたの。今日、庭先に置こうと思ったら忘れちゃって」
「両方、持って行ってもいいよ」
未使用だと言うビニールに入った2つを、差し出した。
さらに
「無理にもらわなくていいのよ」
「いらなかったら、次回、庭先に置いておくから」
と、何度もそう言って。
私の後ろにいた娘が、出されたパスケースへ歩を進めた。
こういう場面、昔の私なら、娘を差し置いて
「あら~いいじゃない、ほら、貰っておきなさい。あなた、好きでしょう?すみませんね~」
なんて、しゃしゃり出ていたが、ここ数年で、1歩さがって黙っていることを学んだ。
娘は、出された2種類のパスケースを、しばらく見てから1つを選んだ。
「もう1つもいいのよ」
と言われたが、小さな声で
「大丈夫です」
と、ぺこりと頭を下げて、うつむいたまま私が持参したカバンに、それを入れた。
手伝いが終わり、食堂の扉を閉めると、娘は
「やった~!いいの貰っちゃった!!」
「ほら~、みてみて、かわいいんだよ!!」
と、貰ったパスケースとカバンを、私に見せながらニコニコの帰り道。
娘に、定期券やら、ICカードを使う予定はないが、チャック付きの小さなスペースが、パスケースにはついていた。
「そのチャックのところに、お金とか入れたら、ちょっとした買い物に使えるかもね」
と、私が言ったら
「いいね~!!」
とますます、言葉も表情もはずんだ。
「この顔を、さっきのスタッフの方の前で見せたらよかったのに」
と言いそうになった私の口だが、寸でのところでストップ。
彼女の今日の頑張りを、ムダにするところだった。
あぶない、あぶない。
今日は、初めて娘が、スタッフの人と会話ができた日。
「大丈夫です」
と意思表示ができた日。
このお手伝い、彼女の人生のなにか・・何かになると思う。