午後10時、15才息子が、突然、断捨離を始めた。
大がかりなものではなく、本棚の1角のこと。
その1角は、彼が小学5年2学期に転校して、5年生が終わって
「学校にはもう行けない」
と宣言するまでの半年間使った、教科書やノートが乱雑に、4年もの間、放っておかれていた。
子ども部屋も、子ども用勉強机もない我が家。
居間の食事用机が、子ども3人の共通の机で、居間にある本棚の1角を、子ども各々の教科書やノートを置いていた。
不登校になって以来4年、ホコリをかぶり、縦横斜めに乱雑に置かれたノート、ファイルたちを開き
「おっ、懐かしいなぁ」
「オレ、こんなこと書いてたのかぁ」
などと言いながら、禁断の領域だったそこを、彼は、なんの前触れもなく片付け始めた。
30分ほどで、そこはポッカリ穴があいたように、何もなくなり
「おっ、いいじゃない!キレイになったね!」
という私の声に、彼は満足そうに、ニヤリ。
そして、その穴を背に、午後10時半過ぎ、居間の定位置に戻って、いつものようにゲーム機をいじり始めた。
翌朝も、本棚は、空っぽの穴があいたまま。
その穴を、起き抜けに見る私に
「キレイになったよなぁ」
と、腕組みをしながら断捨離した本人が、満足げにやってきた。
2人で見ていると、何もなくなった穴の周りの棚には、もう何年も誰も読んでいない本が。
「よし、思いきって処分しちゃおう!」
ふいに、そんな気になった。
実は、そのほとんどが、私の本。
その本は、まだ子どもたち3人が小さくて、髪を振り乱しながらワンオペ育児をしていた頃、私が台所やトイレに隠れて、ようやく1日1~2ページを読んでいた文庫本たち。
当時、唯一のストレス発散であり、唯一の現実逃避だった。
『いつか、もう1度読むだろう』
と、読みもしなくなったのに、捨てられなかった。
『いつか、いつか』
の文庫本たちを、朝から息子と一緒に片付けたら、あっという間に、本棚には空っぽの穴が、いくつも。
感慨深く、それを見ていた私の目の前を
「ちょいと、ごめんよ」
と、息子の大きな背中が立ちはだかり、穴のあいた箇所に、マンガ本を並べ始めた。
そのマンガ本は、彼が不登校になってから4年の間に集めたもの。
「こうやって並べると、背表紙がキレイだ!」
そう言って、大きな背中は立ち去った。
今、4年間ホコリをかぶった禁断の領域は、4年間集めた大好きなものを詰めた解放領域へ。