お隣でのインド人奥さんによる、マンツーマン英語教室が終わり、帰りがけ
「今日の夕食は、何を作るんですか?」
と、つたない英文で、奥さんに尋ねたら、聞いたこともない単語が返ってきた。
「スージーという粉を使った料理」
だと言って、粉を見せてくれた。
白いきめの細かい、グラニュー糖のような見た目の粉。
「丸めて、パンやピザ生地のようにするの?」
と聞いたら、違うと。
なんでも、粉を炒めて、簡単な味付けをし、野菜や肉を加えることもなく、味付けされた粉だけを食べるのだと。
それは、インドの伝統的料理で、今日の夕食は、それだけだと言う。
粉を炒めて食べる??粉のまま??粉だけを??
私には、完成形が、まったく見えなかった。
ポカンとしている私に、ご夫婦は
「良かったら、それを作るときに見に来ますか?」
と言ってくれて、お言葉に甘えることに。
指定された時間に、再びお伺いすると、台所のガスコンロには、中くらいの雪平鍋。
そこへドンと入れたのは、お玉1杯のギーと言う、黄色い色をしたインドの油。
サラダ油や、ごま油のような液体ではなく、ラードのようなドロリとしたもので、少し甘いような独特な香りがした。
弱火でそのギーを溶かし、それから主役の粉スージーを、鍋8分目くらいまで入れる。
そこから真っ白いスージーが、きつね色になるまで、つきっきりで炒めること数十分。
「この炒めた香りが隣の家に届くまで、炒め続けなさいと言われているんですよ」
と、日本語が堪能なご主人が教えてくれた。
「手が痛くなっちゃう」
と笑いながら、ご夫婦で交代しながら炒めていた。
そのうち、炒め続ける奥さんの横で
「精製前の黒糖です」
と言って、カヌレのような見た目の黒糖を、ご主人が細かく切り始めた。
切ったものを食べさせてもらったら、昔懐かしい素朴な飴玉のような味。
それをご飯茶碗1杯ほど、刻む。
『この砂糖の量・・かなり甘いぞ。
それに、お玉1杯の油も入れたから、この料理は、油っこいうえに甘いに違いない』
と、この時点で味の予想はついてきた。
真っ白だった粉が茶色がかり、そこへカヌレに似た黒糖を入れ、更に粉は茶色くなる。
そこに牛乳と、(聞いたが忘れてしまった)何かの調味料、砕いたナッツをいれて完成。
見た目は・・1番近いものでいうと、オカラだろうか。
出来立てを少し食べさせてもらうと、あれだけ入れた油と砂糖はどこへ消えてしまったのか、さっぱりして、ほのかに甘い程度。
甘いのが苦手な私が、もう少し甘味があってもいいかなと思うほどに。
いわゆる
『昔懐かしい、素朴な味』
今どきのお菓子・食事に比べたら、物足りないが、ついつい手が伸びてしまう。
お菓子ほど甘くないがお菓子と言えばお菓子だし、食事にもなり、市販では決して出せない、手作りならではの味だった。
「ご家族にもどうぞ」
と、大皿に盛ってくれて、有難く頂戴。
帰宅して出すと、夫や子どもも、何となく手が伸び、あっという間になくなった。
ただ、この料理名を教えてもらったのだが、思い出せない。
新しい言葉を覚えるには、私の頭は、スージーとギーの2つが限界らしい。
覚えた言葉は2つだけだったが、それ以上の楽しい時間が頭に刻まれたので、それでよし。