私の唯一の自慢は、歯医者で虫歯の治療をしたことがないこと。
その唯一の自慢が、先日なくなった。
生まれて初めて、歯医者で「歯のつめもの」をするというのを経験した。
待合室で呼ばれ、治療台に座り、若い看護師さんの、鈴を転がしたようなかわいい声に従い、前掛けををしてもらい、うがいを素直にする。
口だって、素直に開ける。
でも、素直にみせかけてはいるが、私の心のうちは「この年齢まで、虫歯治療をせずに済んだのだから」と自分を慰めながら、「もはや、これまでか。無念」というじくじたる思いが交差。
たかが詰め物、されど詰め物。
そして、たいした時間もかからず、それは終わり、最後に歯医者さんから言われた。
「どうですか?たかくないですか?」
・・・・たかくないですか?
頭の中で、言われた日本語を漢字に変換する。
たかくないですか・・高くないですか?
「たかい」の漢字変換は「高い」しか思い浮かばない。
「高い」の意味は、値段が「高い」、高低の「高い」、音程の「高い」・・それから・・それ以上思い浮かばない。
現在の我が状況は、人生初の虫歯の治療直後。
で・・・、治療した医師より「高くないですか?と」尋ねられている。
何が????何が高いのだ??
ここで、治療費が高くないですか? なのか?
今更、座っている治療台の高さが、高くなかったですか? なのか?
診察室でかかっていた音楽の音程が高くなかったですか? それはないな。
口を半開きしながら、頭を久々にフル回転させたが、わからない。
おそるおそる「何が、たかいんですか?」と聞いてみることにした。
聞かれた医師が、逆に少々戸惑っている
「えっと・・なんというか、うまく歯に詰め物が合っているかどうか・・」
納得。
「あぁ、大丈夫な気がします」
そう私は答えた。
でも、本当は、人生初なので、これが大丈夫かどうか、よくわからないけれど。
人生初の虫歯治療は、新しい日本語を、私に1つ教えてくれた。
1週間経って、なんだか、その詰め物が、歯にないような気がするので、歯医者の予約をとった。
人生初、歯の詰め物が、たぶん取れた。