兄と弟、ベランダで風に吹かれて
時折、中3息子が
「風が気持ちいいんだよ」
と、自宅のベランダに1人出る。
ベランダに出るときは、片時も離さないゲーム機は室内に置き、遠くを見ている。
本人曰く
「1人で」
というのが良いらしく、私が洗濯物を干しにベランダに行くと、スッと部屋に戻ってしまう。
しかし、その日は、小4弟も一緒に、ベランダにいた。
2人は、横に並んで立ち、もうすぐ日が沈むという中、お互い隣を時々見ながら話をしている。
ベランダを閉めきってしまうと、声は聞こえない。
5才ちがいの兄と弟である。
小4のおこりんぼうの弟は、中3兄にケンカをふっかけたり、イライラをぶつけることが多い。
弟にとって、遊び相手であり、世話を焼いてくれるのは、すぐ上の小6姉。
距離は近い相手だが、彼女にケンカをふっかけようものなら、即、数倍の返り討ちにあうので、絶対に歯向かわない。
対して、5才ちがいの兄は、あまり遊ぶことはないが、どんなに文句を言っても、たいてい
「ハイハイ、分かった、悪かったよ」
というだけ。
弟からすれば、年が5つ離れていようが、30センチ背丈が違おうが、兄は言いたい放題言える相手なのだ。
けれども、兄からすれば、そんな弟の全力の威嚇も、自分がちょっと吠えれば、たちまち泣き出す子犬がキャンキャン騒いでいる程度のこと。
さて、夕暮れのベランダ。
大型犬と、今日はおとなしい子犬。
いつもはベランダで「1人」の大型犬も、子犬を追い払わない。
「珍しい組み合わせだね」
「何を話しているんだろう」
「大したこと言ってないよ」
と、娘とベランダの2つの背中を見ながら、クスクス笑った。
「エモい」
今風にいうと、こういうことなのかな。