私は関東出身である。祖父母の代からそう。
この辺りだと、出汁をとるなら煮干し。
初めて、煮干しの存在を知ったのは、小学校低学年だっただろうか。
その日 台所にいた祖母が 「手品をみせてあげる」 と、妹と私に声をかけた。
「なに?なに?」と喜んで妹と台所に駆け出すと お鍋の中に魚がいた。
くるくるとお鍋の中を数匹の魚が気持ちよさそうに泳いでいた。
「いい?おばあちゃんが呪文を唱えると、この鍋のお魚は泳ぐのをやめるの」
「え~!?ホントに?」
はたして、すべての魚は泳ぎをやめた。
「すご~い!!すご~い!!おばあちゃん魔法使えるの?」
「もう1度呪文を唱えると、また泳ぎだすよ~。ほらっ!」
魔法でもなんでもない。
水が沸騰して鍋の中の煮干しが泳いでいるように見えただけ。
火を止めれば泳ぎを止めたように見える。
それだけのこと。
でも、小学校低学年と幼稚園児の私たちには十分すぎる魔法だった。
今でも、味噌汁だけは煮干しで出汁をとる。
他はズボラなくせに 味噌汁は、顆粒出汁ではどうもいけない。
煮干しを手に取るたびに思い出す。