夜行列車
私の通っていた高校は、女子高だった。
女子高の長所であり、短所は、周囲が同性ばかりなので、多方面で緊張感がなくなること。
さて、私が、夜行列車に初めて乗ったのは、高校の修学旅行のとき。
行き先は、九州。
当日は、東京駅に集合し、テンションMaxの思春期女子の団体が、ピーチクパーチク、先生に注意されながら、夜行列車に乗り込んだ。
ほぼ貸切であったろう列車に乗り込んで、最初にすることは、制服から、動きやすいジャージに着替えることだった。
着替えていると、先生が、なにごとかを大声で言いながら、向こうから走ってくるのが見えた。
「まぁったく、どこにいても、よく怒鳴る先生よね~」
と、私たちは笑いながら、ものすごい形相で走ってくる先生をみていた。
その声は、だんだん近くなり、その言葉も鮮明になり‥何を叫んでいるのかと思ったら
「着替えのときは、窓のカーテンを閉めなさ~~~い!!!!」
そう、まだ列車がホームに停車中、それでなくても沢山の人がいる東京駅で、私たちは、着替えをしていたのだ。
後で聞いたら、カーテンを閉めて着替えたところは1つもなかったらしい。
当の本人たちは、特段、恥ずかしいとも思わず
「あら、そういえば忘れちゃっていたわね」
とケロリ。
数百人の女子高生が、電車に乗り込んだかと思ったら、やおら、目の前で着替えをはじめる・・今の私がそんな光景を見たら・・。
女子高マインド恐るべし。
たぶん、当時も、ホームにいた親切なおば様が、駅員に進言してくれたのだろうか。
周囲を仰天させて始まった夜行列車の旅は、やっぱり眠れなかった。
夜中に停車する誰もいない真っ暗な駅。
普段あまり喋らない友人と、狭い列車の廊下で会って、ガタンガタンというBGMのなか、真っ暗な窓辺で、何となく話をした。
朝焼けの中、列車の窓は知らない景色。
非日常だな、旅をしているんだなって思った。
帰りは、飛行機でひとっ飛びで、行きにあれだけの時間がかかったのが嘘みたいで。
結局、あれから夜行列車に乗っていない。
あの夜行列車が、あの時間が、とても貴重だったのだなと、時が経てば経つほどに感じる。
ゆっくり時間をかけることって、素敵なんだよなぁ。