その日も、小3息子は、夕方にフリースクールが終わると、隣接されている公園に駆け出して行った。
1度は、駐車場にいる私のところに戻るが、それは荷物を置きに来ただけ。
息子の後ろ姿を見送り、また、私は、その帰りを駐車場で待つ。
それから、息子が帰ってきたのは、辺りが真っ暗になったころ。
車の後部座席に座ると、開口一番
「オレさぁ、公園で、楽器の演奏を聴いたんだ」
公園は駐車場の、目と鼻の先だが、私には、その音は聴こえなかった。
息子の話を聞いていくと、どうやら、二胡を弾いている人がいたらしい。
「随分と珍しい楽器の音色を聴けるなんて、かなりラッキーだね!私は、テレビでしかみたことないよ」
そう返すと、急に息子が目を輝かせた。
「え?それって、珍しい楽器なの?」
「オレ、目の前で、生で聴いちゃったよ!」
「お母さん、テレビでしか、みたことないの?」
「オレが経験したのって、普通じゃない?いわゆるレアケース??」
帰りの車内では、その話が1度終わっても、しばらくすると
「普通は、二胡って、お金払って聴くものなの?」
「オレみたいに、タダで、生で聴くのって、すごいんだよね?」
どうも、二胡云々より「自分だけが」「レアケース」という特別感に、ご満悦の模様。
それにしても、息子と私と、すぐそばにいながら、片方は二胡の演奏を聴けず、片方は聴けた。
一期一会というのだろうか、人生の不思議とでもいうのか、人生で同じ瞬間なんてないのだなぁというか。
そんなことを考えながら、私はハンドルを握っていた。
「要は、オレって、ラッキーボーイなんだ~!」
家の駐車場に着いた息子は、そう締めくくった。
そう、感じ方も、人それぞれ。
あの公園で二胡を弾いていた人は、また違う思いがあるはずだし。
面白いなぁ。