スポーツを観戦していると、美を競うものでなくても、選手の姿・技術に『美しい』と感じる、見惚れることがあるだろう。
私が好きなサッカーも そう。
サッカーを『美しい』と 初めてそう思わせてくれたのが、ピクシー(妖精)という愛称の選手だった。
ピクシーは、サッカー好きなら誰もが1度は聞いたことのある 元 世界的名選手。
だいぶ長いこと、日本でプレイをしてくれたお蔭で、その雄姿を拝むことができたわけで。
ただ、ピクシーは私の推しのレイソルではなく、敵のチームにいたのが残念な点であった。
初めて彼を見たのは、レイソルのホームでの試合。
当時のレイソルのホームグラウンドは、今以上に ピッチと応戦席がものすごく近い、観客も1万人超入れば満員なるほど こじんまりとしていた。
それが応援するには、選手と一体感になれて ちょうどいいとサポーターの自慢。
しかし、見方を変えれば、グラウンドが こじんまり しすぎて相手のサポーターに失笑をかっていたというのも事実。
そんなスタジアムに相手チームとして現れたのが、ピクシー。
まだ、来日して1~2年目の30才前後だったか。
選手としては円熟期を迎えつつあった、素晴らしい時期。
私は、まだサッカーを観始めて間もない頃。
開始の笛が鳴った途端、周りの選手が、必死に走り、ボールを取ろうと 取られまいと身体をぶつけあい、応援の声が響く。
しかし、彼だけ サッカー選手ではなく バレエダンサーだった。
彼が いくつかバレエのステップを踏むかのように動くと、ボールを奪おうとした我がレイソル選手が 操り人形のごとく滑って倒れる。
皆が目を外していた場所から、急にボールのある舞台中央に出てきてたかと思えば、とんでもないパスを こともなげに出す。
ボールが ゴール内に吸い込まれる様は、ボールにピアノ線がついていたかのよう。
彼がボールを持つと、私の耳に白鳥の湖が、くるみわり人形の音楽が流れる。
何て美しいのだろう。
サッカーって、美しいスポーツなんだな。
あの頃、有名外国籍選手が あちこちのチームにとっかえひっかえ来ていたが、彼のプレイの衝撃は別格だった。
まだまだ、井の中の蛙だった選手と観客に「これが、世界だ」と突き付けられたような。
そして、監督になっても、妖精だった。
そのピクシーが、祖国の選りすぐりを連れて、今夜 日本に帰ってくる。
井の中の蛙は、少し井の中から出られるだろうか。